最終更新日: 2026年8月4日

STORESでネットショップを続けていると、売上が伸びてきたタイミングでこう思う瞬間があります。「そろそろ法人にした方がいいのかな」。

検索すると「所得800万円が目安」という記事がたくさん出てきます。でもその800万円という数字、社会保険料をちゃんと含めて計算されているものは意外と少ないんですよね。

この記事でわかることは3つです。

  • 所得500万〜1,200万円で、個人事業主のままと法人成りした場合、税金+社会保険料の合計負担がいくら変わるか(独自試算)
  • STORES・BASEの契約や特定商取引法の表記は、法人成りでどう変わるか
  • 法人成りの実務チェックリストと、正直なデメリット

結論から言うと、社会保険料まで含めて計算すると、法人成りが本当に有利になる所得ラインは「800万円」よりかなり高いところにあります。今回試算した独身・40歳未満のモデルケースでは、所得1,200万円あたりでようやく個人事業主と法人成りの負担が並ぶ、という結果になりました。

私はSTORESでネットショップを実際に運営している個人事業主です(宅建も保有しています)。まだ法人化はしていません。この記事は「法人化した体験談」ではなく、開業届経費と同じく、自分がいずれ判断する日のために、国税庁・日本年金機構・協会けんぽなど公式の税率・料率を使って調べ尽くし、試算した記事です。数字は2026年8月4日時点の制度・料率をもとにしています。

法人成りの判断基準は「所得」ではなく「税+社会保険の合計負担率」

結論:法人税率だけを個人の所得税率と比べるのは不十分です。社会保険料(労使合計)まで含めて初めて、正しい比較になります。

「所得800万円を超えたら法人化した方が得」という説明の根拠は、法人税の軽減税率にあります。資本金1億円以下の中小法人は、年800万円以下の所得に15%、超える部分に23.2%の法人税率が適用されます(国税庁)。一方、個人の所得税は5%〜45%の累進課税なので、所得が上がるほど法人の方が税率で有利に見えます。

ただし、この比較には大きな抜けがあります。法人化すると、代表者本人が社会保険(健康保険・厚生年金)に強制加入になり、しかも保険料を会社と本人で折半して払うことになるという点です。個人事業主の国民健康保険・国民年金と比べると、法人の社会保険は保険料率がかなり高く、ここを無視した比較は実態とズレます。次の章で、この社会保険料まで含めた試算をお見せします。

【独自試算】所得500万〜1,200万円、個人事業主と法人成りの合計負担を比較

結論:所得500万〜900万円では個人事業主のままの方が負担が軽く、1,200万円あたりでようやく法人成りと拮抗します。

次の前提でモデルケースを作り、国税庁・日本年金機構・協会けんぽ・総務省の公表データをもとに試算しました。

  • 独身・扶養家族なし・40歳未満(介護保険料の負担なし)
  • 「所得」は経費控除後の事業利益(法人の場合は役員報酬・社会保険料を差し引く前の利益)
  • 個人事業主は青色申告特別控除65万円を適用
  • 法人成り後は、利益から会社負担の社会保険料を払った残りを役員報酬として全額支給し、法人に利益を残さない(内部留保ゼロ)最もシンプルなケースを想定。実際は役員報酬と内部留保の配分次第でさらに調整の余地があります
  • 国民健康保険料は東京23区モデル(令和7年度料率、令和8年度は賦課限度額のみ改定)を使用。健康保険・厚生年金は協会けんぽ東京・令和8年度料率を使用
  • 家族を役員にする、小規模企業共済・iDeCoを使うといった追加の節税策は含めていません
所得(利益)個人事業主
税+社会保険の合計
法人成り
税+社会保険の合計
差額(法人-個人)
500万円132.6万円(負担率26.5%)157.5万円(負担率31.5%)+24.9万円
700万円215.6万円(負担率30.8%)229.0万円(負担率32.7%)+13.4万円
900万円301.9万円(負担率33.5%)317.1万円(負担率35.2%)+15.2万円
1,200万円427.4万円(負担率35.6%)427.3万円(負担率35.6%)-0.1万円(ほぼ同水準)
筆者試算(2026年8月4日時点)。国税庁「所得税の税率」「青色申告特別控除」「法人税の軽減税率」、日本年金機構「国民年金保険料」「厚生年金保険料額表」、協会けんぽ「東京都の保険料額表(令和8年度)」、東京都保健医療局「特別区国民健康保険料率」をもとに算出。個人事業税(物品販売業5%、事業主控除290万円)、法人住民税均等割(最低7万円)を含む。あくまでモデルケースの概算であり、実際の税額・保険料は個々の状況や自治体で異なります。

内訳を見ると、法人成り後の負担は「所得税・住民税は下がるが、社会保険料(労使合計)がその分を打ち消す」という構造になっています。役員報酬は給与所得控除が使える分、個人事業の事業所得より課税所得が圧縮されやすいのですが、健康保険・厚生年金の労使合計負担率(合計で報酬のおよそ27〜28%)がそれを上回ってしまうためです。

特に900万円のケースで法人成りの方が15.2万円も重くなっているのは意外に見えるかもしれません。これは、報酬月額が厚生年金の標準報酬月額の上限(65万円)に近づき始める一方、健康保険料はまだ上限に達していないため、社会保険料の負担がフルに乗ってくる所得帯だからです。「800万円を超えたら法人化」という目安は、社会保険料を考慮すると必ずしも当てはまりません。この試算では、1,200万円に近づいて初めて両者が拮抗します。

もちろん、法人成りには税金・社会保険以外のメリット(社会的信用、赤字の10年繰越、家族への所得分散など)もあるので、負担率だけがすべてではありません。それでも、「800万円で自動的に得になる」という単純化された情報だけで判断するのは危険だと、この試算からは言えます。

ネットショップ特有の論点|STORES・BASEの契約は法人化でどうなるか

結論:STORESは同一アカウント内で「事業形態」を個人事業主から法人に変更できます。ただし変更後は利用中のサービスで再審査が発生します。

法人成りでは、取引先との契約を個人名義から法人名義に切り替える必要があります。ネットショップ運営者にとって一番気になるのは、STORESやBASEのアカウントがどうなるかでしょう。STORES公式ヘルプセンターには、次のように明記されています。

個人事業主の場合 事業形態 事業形態を法人に変更する場合は、画面の案内にしたがって必要な事業者情報を入力してください。個人に変更することはできません。(略)事業者情報の変更後に、利用中のサービスで審査が必要な場合は再度審査がおこなわれます。審査中は事業者情報の変更が保留されますので、審査完了までお待ちください。

STORES ヘルプセンター「事業者情報を変更するときの注意事項を教えてください」

つまり、STORESはアカウントを作り直す必要はなく、事業者情報の画面から法人に切り替えられます。ただし「個人事業主→法人」は変更できても「法人→個人」への逆変更はできないと明記されているので、後戻りはできません。また変更後は決済サービスなど審査が必要なサービスで再審査が走り、審査完了まで変更が保留される点も踏まえて、余裕を持ったスケジュールで進めてください。BASEについても、個人向けに用意されている所在地・連絡先の非公開機能は法人化すると使えなくなるなど、プラットフォームごとに条件が変わる部分があるので、切り替え前に必ず利用中のサービスのヘルプページで最新の仕様を確認してください。

特定商取引法の表記は法人成りでどう変わるか

結論:氏名は「個人名」から「法人名+代表者名」に、住所は登記簿上の本店所在地に変更が必要です。

個人事業主のときは、特定商取引法の表記に戸籍上の氏名(屋号のみは不可)と、現に活動している住所を記載する必要がありました。法人成りすると、この表記も切り替えが必要です。

項目個人事業主のとき法人成り後
氏名・名称戸籍上の氏名(屋号のみは不可)法人の商号+代表者名(または通信販売業務の責任者名)
住所現に活動している住所登記簿上の本店所在地(番地の省略は不可)
在庫個人の資産として管理法人へ資産・負債として引き継ぎ(現物出資や売買、賃貸借契約など方法は複数あり、税理士に確認して進めるのが安全)
消費者庁「特定商取引法ガイド」等の公式情報をもとに作成

在庫や設備といった事業用資産は、個人事業主のときのものをそのまま法人の資産として引き継ぐ必要があります。引き継ぎ方法(法人への売却、現物出資など)によって税務上の扱いが変わるため、この部分は自己判断せず税理士に相談することをおすすめします。

法人成りの実務チェックリスト

結論:登記→法人口座→社会保険→特商法表記→契約の名義変更→会計ソフト切替、の順番で進めると抜け漏れが少なくなります。

  • □ 商号・本店所在地・事業目的を決める(類似商号の事前調査も)
  • □ 定款を作成し、公証人の認証を受ける(合同会社は認証不要)
  • □ 資本金を払い込み、法務局で設立登記をする
  • □ 個人事業の廃業届を税務署に提出する(廃業から1か月以内が目安)
  • □ 法人設立届出書・青色申告承認申請書などを税務署・都道府県・市区町村に提出する
  • □ 法人名義の銀行口座を開設する
  • □ 社会保険(健康保険・厚生年金)に加入する(代表者1人の会社でも強制加入)
  • □ STORES・BASEなど利用中のプラットフォームの事業者情報を法人に変更する
  • □ 特定商取引法の表記を法人名・登記住所に変更する
  • □ 仕入先・配送業者・決済代行会社など各種契約の名義を法人に変更する
  • □ 在庫・設備などの資産を法人へ引き継ぐ(税理士に相談)
  • □ 会計ソフトを法人向けプランに切り替える(個人と法人の帳簿を明確に分離)

経費の判断基準や会計ソフトの選び方は、個人事業主のときとほぼ共通する部分も多いです。切替え前の整理にはネットショップ・副業の経費はどこまでOK?判断基準を一覧表で整理も参考にしてください。

法人口座の開設|個人名義のままでは取引を続けられない

結論:法人成りしたら、個人名義の口座をそのまま事業用に使い続けることはできません。法人名義の口座を新たに用意する必要があります。

STORESの売上振込先も、法人化後は法人名義の口座でなければ登録できません(特定商取引法の表記の名義と振込先口座の名義が異なると、STORESから確認の連絡が入ることがあります)。法人口座は都市銀行・地方銀行だと開設までに数週間かかることもあるため、登記が完了したら早めに申し込んでおくのが安全です。オンライン完結・最短当日開設をうたうネット銀行系のサービスを使えば、申込から口座利用開始までのスピードを重視できます。

▶ 登記直後の口座待ちで振込・入金が止まるのを避けたいなら、ラクスルバンクの法人口座開設ページを見る

※本記事執筆時点で、ラクスルバンクの提携(アフィリエイト)状況をA8.netの管理画面で確認できなかったため、上記は成果報酬の発生しない通常リンクとして掲載しています。提携が確認でき次第、広告リンクに差し替える予定です。

登記に使う住所をどうするか|バーチャルオフィスという選択肢

結論:自宅を本店所在地として登記したくない場合、バーチャルオフィスの住所を使えます。ただし登記対応のプランかどうかは事前確認が必須です。

個人事業主のときに特定商取引法の表記だけを隠していた人も、法人成りすると本店所在地は登記簿に残るため、自宅を使いたくないなら住所そのものを用意する必要があります。ネットショップの特商法住所公開|個人がバーチャルオフィスで隠す方法で6社の料金を比較していますが、法人成りの場面で特に見ておきたいのは「法人登記に対応しているか」です。

  • NAWABARIのビジネスプラン(年間契約) → 月額1,650円で目黒区の住所を法人登記に利用可能。ネットショップ運営プラン(登記不可)とは別プランなので注意
  • ナレッジソサエティ → 千代田区の住所で法人登記に対応。会議室・受付スタッフ常駐まで含めて信用力を重視したい場合向き

▶ 目黒区・渋谷区の住所で法人登記まで対応、ネットショップ運営との併用実績もあるNAWABARI公式サイトでビジネスプランを確認する
▶ 千代田区の一等地住所で登記・来客対応まで整えたいなら、ナレッジソサエティの料金プランを見る

法人成りの正直なデメリット

結論:赤字でも法人住民税均等割7万円が発生し、社会保険は強制加入、決算・税理士費用もかかります。節税の話だけで決めると後悔しやすいです。

  • 赤字でも法人住民税の均等割(最低7万円)は必ず発生する。個人事業主なら所得ゼロなら税金もほぼゼロですが、法人はそうはいきません
  • 社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が強制。代表者1人の会社でも加入義務があり、この記事の試算どおり保険料の負担は軽くありません
  • 決算・申告が複雑になり、税理士費用がかかりやすい。複式簿記の帳簿づけ自体は個人の青色申告でも必要ですが、法人税申告は税目が増え、自力での対応が難しくなる場面が増えます
  • 事務負担が増える。社会保険の手続き、法人特有の届出、株主総会(一人会社でも書類上は必要)など、個人事業主にはなかった作業が発生します
  • 一度法人にすると、個人事業主には戻れない。STORESの事業形態変更も「法人→個人」はできないと明記されています

私ならこう判断する|条件別の結論

結論:所得900万円以下ならまだ急がない。1,000万円を安定して超えそうなら、税理士に相談しながら具体的な準備に入ります。

  • 所得がまだ500万〜700万円くらい → 個人事業主のまま、青色申告65万円控除をしっかり取ることを優先する。この試算では法人成りの負担の方が重いタイミングです
  • 所得900万円前後で、今後も伸びる見込みがある → まだ急いで法人成りする必要はないと考えます。社会保険料の負担が大きいタイミングなので、1,000万円を安定して超える見通しが立ってから動いても遅くありません
  • 所得1,200万円前後、あるいはそれ以上が続いている → 税負担だけで見ればほぼ拮抗しますが、社会的信用・赤字の10年繰越・取引先からの要望(法人でないと取引できない場合がある)などを踏まえて、法人成りを具体的に検討する価値が出てきます
  • 屋号での取引先からの信用を重視したい/すでに融資を考えている → 所得水準に関わらず、法人成りのメリットが税負担の差を上回ることがあります。この場合は税負担のシミュレーションよりも事業計画を優先して判断します

全員に同じ答えはありません。「800万円」という数字だけで動くのではなく、自分の所得水準でこの記事の試算表に当てはめて、税理士に相談しながら決めるのが遠回りしない順番だと思います。

よくある質問

Q1. 法人成りは所得がいくらから得になりますか?

「800万円」という目安は法人税の軽減税率の境目にすぎず、社会保険料を含めて試算すると、この記事のモデルケースでは1,200万円前後でようやく個人事業主との負担が並びます。家族構成・年齢・役員報酬の設計によって結果は変わるため、自分の状況では税理士に個別に試算してもらうことをおすすめします。

Q2. STORESのアカウントは法人成りでどうなりますか?

STORES公式ヘルプセンターによれば、事業者情報の画面から事業形態を「個人事業主」から「法人」に変更できます。アカウントを作り直す必要はありませんが、変更後は利用中のサービスで再審査が発生し、審査完了まで変更が保留されます。逆方向(法人から個人)への変更はできません。

Q3. 法人成りしたら社会保険に絶対入らないといけませんか?

はい。代表者1人だけの会社であっても、法人は健康保険・厚生年金への加入が原則義務です。個人事業主の国民健康保険・国民年金と比べて保険料率が高く、この記事の試算のとおり負担が重くなりやすいポイントです。

Q4. 赤字の年でも法人の税金はかかりますか?

かかります。法人住民税の均等割は所得の有無にかかわらず発生し、資本金1,000万円以下・従業員50人以下の標準的な小さな法人でも最低7万円程度が目安です。個人事業主なら所得がなければ税金もほぼ発生しないため、ここは法人特有の負担です。

Q5. バーチャルオフィスの住所で法人登記はできますか?

サービスによります。同じ会社のプランでも「住所利用のみ」と「法人登記対応」でプランが分かれていることが多く、この記事で紹介したNAWABARIも、ネットショップ運営プランでは登記不可、ビジネスプランでのみ登記可能です。契約前に登記対応の可否を必ず確認してください。

まとめ

この記事の要点を4行にまとめます。

  • 社会保険料まで含めて試算すると、法人成りが有利になるラインは「800万円」よりかなり高く、このモデルケースでは1,200万円前後
  • STORESは同一アカウントのまま法人に事業形態変更できるが、再審査が発生し「法人→個人」には戻せない
  • 特商法の表記は法人名・登記住所への変更が必須。在庫などの資産引き継ぎは税理士に相談を
  • 赤字でも均等割7万円・社会保険の強制加入という、正直なデメリットも踏まえて判断する

まずは自分の直近の所得を、この記事の試算表に当てはめてみてください。「なんとなく800万円が目安」で動くより、社会保険料まで含めた数字で考えた方が、後悔のない判断ができます。

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※本記事は法人化を実際に行った体験談ではなく、国税庁・日本年金機構・協会けんぽ・東京都・消費者庁・STORES公式ヘルプ等の公表情報をもとに、独自に試算・整理したものです(2026年8月4日時点)。税額・社会保険料の試算はモデルケースの概算であり、実際の金額は所得構成・家族構成・居住する自治体・役員報酬の設計によって変わります。法人成りの判断や個別の税額については、必ず税理士・税務署・年金事務所にご確認ください。

【追記】法人化するなら、費用をどう抑えるかも気になるところです。弥生のかんたん会社設立・freee会社設立・マネーフォワード会社設立・自分で設立・司法書士依頼の5パターンを、株式会社と合同会社それぞれ同じ条件で比較した記事も書きました。弥生のかんたん会社設立の評判|株式会社・合同会社の費用を5社で比較で、「無料」の裏側にある会計ソフト契約の条件も含めて整理しています。

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